覚醒物質オレキシンと血糖値の関係、食後の眠気との戦い

 睡眠薬を使っている、という話はあまり積極的には公にしたくない感じがある。ヤフーリアルタイム検索でツイート数を調べてみると、「睡眠薬」と「眠剤」を合わせて1日2500件程度。たくさんいるような、思ったよりも少ないような微妙なラインだ。
 
 ただ、今回は十数年に渡って悩まされてきた「食後の異常な眠気」をどうにか制御できるかもしれないという自分にとっては非常に興味深い気付きだったので、誰にあてるでもないが記録に残しておこうと思った。
 
 睡眠薬にはいくつもの種類があり、入眠の支援を目的としたもの、睡眠中の覚醒を防止するためのもの、精神安定を主な効果とするものなど、狙いによって使い分けがなされる。
 
 このうち、自分はマイスリーというメジャーな入眠支援タイプを使っていて、用量は5mg。ほとんど効いているかどうかもわからないおまじない程度の強さで、特に困っていないのでこれ以上強くするつもりもない。
 
 長期服用に関する副作用については諸説あり、家族は当然反対している。自分もその点に懸念を持たないわけではないものの、株で生きるか死ぬかの生活を続ける者にとって夜きちんと寝られるかどうかは人生を左右する重大事であるから、そう簡単にきっぱり辞めることもしづらいという事情がある。
 
 ところで、最近そのマイスリーが切れたため、あるクリニックへと赴いた。そこに行くのは1年ぶりだったので雑談も交えつつ、他に何かいい薬は出ていないのかと聞いてみると、より依存性の低いベルソムラというのがあるという。まさに上記の懸念に対するアンサーだったので、渡りに船と早速試してみることにした。
 
 しかし、残念なことにこれが自分には全く合わなかった。睡眠薬で合わないというと大抵効かない方だと思うが、今回のケースでは異様に効きすぎて翌日午前くらいまで何も考えられないような状態が続いてしまった。何度か試してもほぼ同様の結果だったので、たまたまとは考えにくい。お陰で株で失敗することもあったし、危険性が高すぎるためもう使うことはないと思う。

 それで、これは一体どういうことだろうと調べてみたらオレキシンという物質に行き着いた。処方された時には最近出た新しいタイプの薬ぐらいにしか聞いていなかったのだが、なるほどアプローチが全く異なる。
 
 オレキシンというのは要するに起きているために必要な物質で、マイスリーのように無理やり眠らせに行くのではなく、そちらを抑えることで起きていられなくするというやり方のようだ。もともとある物質を阻害しているので、人体にとってもより自然な働き方と捉えることもできるらしい。

 このオレキシン受容体拮抗薬には2014年にMSDから出たベルソムラと、2020年にエーザイから出たデエビゴがある。実はデエビゴの方は別のクリニックで出されたことがあり、その時も全く同じような症状が出ていた。何のことはない、作用が同じなのだからそうなるのは当然の帰結であった。
 
 ただ、これらの結果から自分がオレキシンの抑制にはめっきり弱い体質であることがハッキリした。そして調査しているうちに偶然出てきたのが、食後、満腹時の眠気にもこのオレキシンが関係しているという説である。
 
 詳細は各自調べてもらいたいが、人には空腹時には生存可能性を高めるためにオレキシンを放出して覚醒度を高く保ち、食後にこれを落とすというメカニズムが備わっているようだ。実際には、血糖値の上昇に伴ってオレキシンの分泌が低下するという動き方をする。
 
 さて、冒頭で書いたように自分は20代後半あたりから、食後に出る起きていられないほどの病的な眠気にずっと悩まされてきた。それも朝と昼はそれほどではなく、夜にだけ強く発生するというもので、このため夕食の量を軽くしたり、水分を多く取る、炭水化物は除くなどの工夫をしてどうにか対処法を探ってきた。
 
 その中でも近頃有用だと感じているのが、食前にレモン果汁を摂取するという方法である。レモン果汁には食後に上昇する血糖値の最大値を抑制する効果があると聞いてから、「ポッカレモン100」30ccを食前に飲むようになったが、体感としては確かに以前ほど眠くならなくなった。
 
 それで、やはり敵は血糖値だったかと納得していたのだが、このベルソムラの一件によってその見方が覆された。恐らく鍵を握っているのはオレキシンの方だ。
 
 それにしても、こんなことに何故今まで気付かなかったのだろうと考えたが、オレキシン自体の発見が1998年と遅く、関連する薬が上市されたのも2014年が初なので、まだそれほど一般に理解が広まっていないのかもしれない。
 
 日経メディカルの実施した医師会員への最新のアンケート結果によると、国内の睡眠薬市場ではデエビゴとベルソムラが急速にシェアを拡大して最主流の地位を占めるようになっており、大きな変化が起きていることが見て取れる。これを逆手に取って、オレキシンを増やすことで有用な効果を得るための研究や開発も既に行われているようだ。
 
 今回はまだキーワードを得ただけだが、正確な狙いが定まったかもしれないというだけでも自分の中では大発見だった。今後はオレキシンの制御に絞った工夫を重ねることでQoLの向上が図れると思うと非常に楽しみである。