モダリス株の制度ロックアップ違反に関する補足と今後の対応について

 モダリス株の制度ロックアップ違反を起こしてしまった経緯について、補足として詳細にご説明します。

 

 まず確約書について、私が2019年4月に株式の割当を受けた際、上場日以後6ヶ月を経過する日までの間に売却しないことなどを内容とする確約書をモダリスと締結しています。しかし、モダリス上場の時期にはこの確約書の存在について、本当に完全に失念してしまっていました。

 その後、2020年8月のモダリス上場後、自分の持ち株がロックアップ対象であるかどうかを確認するため、有価証券届出書の13ページにある「ロックアップについて」の箇所を参照しました。

 この当時、私はこの上場直前に割り当てを受けた株主の短期利得行為を規制する制度ロックアップというルールに関して認識しておらず、ロックアップといえば、有価証券届出書の「ロックアップについて」の箇所に株主名が記載された任意ロックアップのことのみを指すものと誤解していました。

 そのため、「ロックアップについて」の箇所に自分の名前の記載がなかったことから、今回はロックアップ対象外であると早合点をしてしまいました。

 また、以前に他の銘柄で上場を迎えた時には、上場の直前にロックアップレターを差し入れ、それが任意ロックアップの対象として有価証券届出書に記載されていたという経験がありましたが、今回は同様のレターの差し入れが上場の直前になかったこともあって、やはり私の保有するすべての株式がロックアップ対象外であると誤認してしまいました。その結果、市場にて保有株を売却してしまったものです。

 以上の経緯はまったく私の不注意と不勉強に起因するもので、実際の売却の前に、ロックアップについて発行体や主幹事証券への事前確認を怠ったことは大きな誤りであったと深く反省しています。今後はどのようなケースにおいても売却時には事前確認を行うことで、再発を防止します。

 どうしても後出し気味のお話になってしまうのですが、今回の最低限のけじめのつけ方として、この市場ルールへの重大違反によって得られた利益を私が受け取ったままにしておくことは絶対にできないと考えています。これを何らかの形での返上ができないか、本日の開示後より、今回関係者の皆様に相談に乗っていただいているところです。

 今回は本当に言い訳のしようもありません。モダリス関係者の皆様、市場参加者の皆様に改めて深くお詫び申し上げます。

 

 制度ロックアップと任意ロックアップの違いについては、下記のサイトをご参照ください。

上場前の資本政策とロックアップ – Rusty

モダリス株の制度ロックアップ違反に関するお詫び

  この度、以前より保有していたモダリス株の売却の一部が、取引所の定める制度ロックアップに違反していたことが判明しました。

 市場の規律を乱す事態を引き起こしてしまったことを、心よりお詫び申し上げます。

 具体的な内容に関しては、モダリス社による開示をご確認ください。

https://www.release.tdnet.info/inbs/140120210324483240.pdf

 

 本件に関する詳細と経緯について、モダリス社および取引所への報告を行っています。

 自らの無知と不注意により、他の市場関係者の方々にご迷惑をおかけしたことを深く反省し、今後は二度とこうした事態を招くことのないよう、取引所に報告した再発防止策を徹底して、市場ルールの遵守に努めていく所存です。

バーチャルトレーダーの罪深さ

 その昔、2chの投資一般板に、常に信用全力で派手な取引を繰り返す人気のコテハンがいた。彼の書くブログはランキングでも上位で、多くの読者を惹きつけていた。

 余人には真似できないダイナミックな資産の増減。それが注目を集める要素であり、コンテンツの中心であった。

 仕手株個人投資家に人気のテーマ株など、ボラティリティの高い銘柄を主に手掛け、時には激しいドローダウンに見舞われることも幾度となくありながら、ここ一番では大ロットの底値買いを決めて奇跡のような復活劇を繰り返し、最終的にその資産額は増え続けていった。

 デイトレブームの到来で経験の浅い個人投資家が大量に生まれ、まだ情報ネットワークも未整備だった時代、彼のような草の根のカリスマに憧れるトレーダーは少なくなく、自分もしばらくはその読者の一群に加わっていた。

 ただ、ある時にふと疑問に思うことがあった。大きくやられた後の戻し方があまりにも都合が良すぎるのだ。しかも、そういう時は大抵含み損からの底値倍ナンピンによる脱出というパターンが多かった。

 値動きの激しさは、欲や恐怖を煽って人を正しい判断から遠ざける。そこにレバレッジがかかっていれば、のし掛かる精神的な負荷は加速度的に増大する。

 それなのに、彼は追い込まれるほどに集中力を増しているかに見えた。普通なら折れて投げてしまうようなところを、いつも不思議過ぎるほどの沈着さで完璧な買い増しを敢行して窮地を切り抜けていた。

 マンガやアニメのキャラクターならそれでいい。しかし生身の人間にそんな能力が備わることがあるのだろうか。しかも一度や二度ではなく、毎回そうなのだ。

 ほどなくして、資産報告スレで常勝を誇っていた緑地公園というコテハンがバーチャルであったことを告白したという話を聞いた。投資界隈におけるいわゆる"バーチャ"、すなわち嘘の報告を行って勝ちを偽装している者の存在を、自分はそこで初めて知った。

 それまで想像もしていなかったバーチャという存在。その概念が頭にインプットされた時、ごくごく自然な発想としてある考えが浮かんできた。ひょっとして、彼もバーチャなのではないか?

 それからそういう目線で見てみると、彼の報告があまりにも不自然に都合よく作られたものに見え始めた。お得意の底値買いにしても、その価格の流動性がほとんどないというポイントで見事に反転を捉えていることになっているケースが非常に多いことがわかってきた。

 こんなことは絶対にありえない。なぜなら、そんな芸当ができる投資家ならそこまで追い込まれる前に、もっと楽に勝っているはずだからだ。彼は話を盛り上げるために取引をでっち上げている。様々な状況証拠から、自分はそのように断定した。

 その後、彼が借金の申込みを方々でしているという噂が流れたこともあり、いつの間にか世論も自分と同じような見方をするようになり、いつしか彼はネットから姿を消した。今から15年も前の話である。

 マーケティング、虚栄心、承認欲求、あるいは単なるイタズラ。SNSがあらゆる人に行き渡った現在、世の中には様々な動機によって、より巧妙にウソをついて自身の影響力を高めようとする人々で溢れかえっている。

 私はネット上に流布されるウソが、人が考えているよりも遥かに社会にとって有害だと思っているため、この風潮には強い嫌悪感を覚えている。

 先程の例を取ってみれば、彼は本来なら成功し得ない無茶なトレードをバーチャとして繰り返し、あたかもそこに道があるように見せかけることで、腕さえあればあんな取引ができるはずなのだと多くの者を錯覚させてしまった。

 本当は誰にも渡ることのできない吊橋があって、その向こう側で偽りの勝者が宝物を手に囁く。さあ渡ってごらん、君に勇気と実力があるなら、きっとこの橋を渡りきれるはずだ、と。本人にはそんな意図はなかったかもしれないが、私には彼のしたことがそれほど残忍な行為に思えたのだ。

 人の意識は生まれた時は空っぽで、人生の中で色々な体験をすることでその輪郭が形作られていく。火を扱う時には注意するべきだとか、雨の日には少し慎重に歩いた方がいいとか言うことは生まれながらに知っていたわけではなく、体験を通して必要だから学んでいくのである。

 緑地公園という人の話を聞くまで、自分はバーチャという存在を知らなかった。ジェイコム事件が起きた後で初めて、株に誤発注という可能性があることを認識した。そして、そこでBNF氏が大儲けをした、その結果、資産額が3桁億円にも登るらしいということを知って、本気で投資家としてやっていきたいと考えた。あの一件がなければ、株にそれほどのポテンシャルがあると知らないまま別の人生を送っていたかもしれない。

 ある出来事が人の意識を作り変え、それが人生そのものに影響を与えるようなこともあるのだ。

 これはポジティブな影響の例だが、逆も当然ある。知らぬが仏という言葉もあるように、何かに対して過剰に恐怖や不安を植え付けられた結果、しなくてもいい悩みや心配をし、不要な備えをしてしまうこともあるだろう。その原因が事実に基づかないものだとすれば、そこに意識を持っていかれることに意味はなく、単に生きづらくなってしまっただけに過ぎない。

 耳目を集めるために少々"盛る"行為は、SNSでは必須のスキルとなっていると考える人もいるかもしれない。だが私には、今のSNSを中心としたインターネットが小さな虚飾に対して強いインセンティブを与えすぎているように思える。

 個々人が自らの目的を果たすために小さな虚飾を重ねた結果、人々の意識をありもしない幻想が支配し、それが多くの人の行動という現実に作用することがあるのだとしたら、これほど恐ろしいことはない。

 そしてもし、ウソを付くことが人に生来備わった行動原理で、SNSがそれを増幅させている"だけ"なのだとしたら、それこそ救いがたい悪夢だ。

 銀河英雄伝説の中で、ヤン・ウェンリーはこう言った。

「人類が火を発見してから100万年も経つのに、未だに火事はなくならない。近代民主主義が成立してからまだ2000年足らずだ。結論を出すには早すぎると思うな」

 例えどれほどの時間が必要だとしても、これが人とSNSの持つ致命的な欠陥ではなく、正しい扱い方を学ぶことで修正可能な課題であることを願うばかりだ。

dely堀江さんのnoteを読んで

note.com

 

 私は以前から、クラシルを運営するdely株式会社の堀江裕介さんに注目していた。何故かと言えば、クラシルが今のような凄いサービスになると予見したからでは決してなく、むしろその逆である。

 

 実は彼とは大昔に1度だけ会ったことがある。スタートアップがプレゼンをする集会に誘われて顔を出した際、当時は祖業のフードデリバリー事業を手がけようとしていたdelyがたまたま発表を行っていた。低頻度とは言え、私がまだそうした場に関心を持って出かけていっていた頃だから、2014年前後のことだと思う。

 

 私の第一印象は、よくこんな事業を選んだなと言うものだった。コロナの影響もあり、今でこそフードデリバリーは社会に浸透しつつある。しかし当時としてはやはりまだ早いという感覚で、恐らく仕上がりの利益率も低く、かつ軌道に乗るまでの先行投資も多額に上ることから、本業とのシナジーのないスタートアップが単体で取り組む領域としてはあまりにも厳しいのではないかとの感想は拭えなかった。

 

 ただ、今と変わらない眼光の鋭さを備えた堀江さんは独特の自身をみなぎらせていて、事業そのものに対する評価とのギャップが返って私に強い印象を与えた。それでその後もしばらく彼のことはどうしてか記憶に残っていたのである。他の参加者がどのようなプレゼンをしていたのかは今となってはほとんど覚えていない(アルパカの横川さんと知り合ったのもそこだったような気もするが、別の回だったような気もする)。

 

 やはりと言うか、最初の事業はしばらくして立ち行かなくなったようだった。だが驚くべきはそこからだった。資本の再構成はあったらしいものの、会社を変えずに彼は事業を模索し続け、社員離散の憂き目を乗り越えて今日に至るまでの大逆転のストーリーを描いてみせた。その過程では、ヤフーへの株式譲渡で投資家にも多大なリターンをもたらしている。

 

 果たして、未だ30歳にもならない若者がどうしてそんな大事を成し遂げられたのか。最初の姿を見ていただけに、クラシルが凄いらしいという噂を聞くにつれ、彼に対する興味は募っていった。と同時に、人の、特に若い人の変化に対して自分はもっと可能性を感じるべきではないかという考え方を持つようになり始めた。

 

 その答えの一端を、今回のnoteで垣間見れたような気がした。

 

他にもCMの資金が必要で売上0の会社が2ヶ月で10億、年間で35億近くの広告宣伝費を使った年。社長の私は資金調達という大将戦をしていました。まだ24歳だった私は人脈も全くありません。一方で競合は業界の大先輩ばかり。どう考えても勝てるはずない戦いですが結果的にはこの戦いにも勝ちました。僕は途轍もない執念を持って戦っていました。とにかく会う人会う人にインパクトを残し続け、あの男は凄いと投資家の方々から信頼してもらうためにあらゆることをやり続けました。競合企業の社長の考えていることをチェックするためにTweetのfavを毎日チェックし、誰と絡んでいるか、FBで誰と今日繋がったなども逐一チェックし、それが著名VCであれば一目散にアポを取り、delyが絶対に勝つ理由を説明しその資金調達や提携を全てdelyに引き寄せました。

 

 本人も言うように、この執念の強さはただごとではない。しかもその方向性が、会社の代表として今何をすべきかというベクトルが、正しくゴールに向けられていながらも、その姿を想像すると少し笑みがこぼれてしまうような、しかし常人にはなかなか思いつきそうもない奇抜な発想と細かな作業によって実行されていることに思わず感心してしまったのだ。

 

 この執着心が、ここまでの過酷な体験から生まれたものなのかどうかはわからない。あるいは、最初の躓きがなくずっと順境にあったなら、今の堀江さんは存在したのかどうか。それは本人にしかわからないこととは思うが、同じように勝負に勝ちたいと望みながらも、ここまで物事を詰めきれた人のことを自分も含めてそう知らないだけに、この一つのエピソードを知っただけでも様々に考えさせられることとなった。

 

 また、これは完全に個人的な価値観のことに過ぎないが、最近の組織論や度々されているゴミ拾いの話など、堀江さんの日頃のツイートなどを見ていても、同じ常識破りにしてもそれらが基本的には内側に向いているというか、よくある他者を押しのけてまでの過度な自己利益の追求に寄っていないような印象があり、そこも共感できるポイントとして非常に大きい。

 

 外部から見れば彼やクラシルは一定の成功を収めているように思えるが、恐らくdely自身としてはまだ途上も途上ということなのだろう。経営者としてまだまだ進化していくに違いない堀江さんの率いる組織が、数年後数十年後にどのような変化を遂げ世の中にどんなインパクトを与えることになるのか、全くの部外者ではあるが行く末を見るのを勝手ながらに楽しみにしている。

市場の崩壊には表と裏の顔がある

 この2日、東京市場で大規模なアンワインドが観測されています。アンワインドとはポジション解消のことを指し、買いと売りを組み合わせて運用するロングショートヘッジファンドの場合、上がると見込んだ株を売って、下がると見込んだ株を買う動きをすることになります。こうした意に反する取引を迫られるのは、次のようなケースが考えられます。

・相場の急変動で先行きが不透明になった時に、安全を確保するためにポジションを軽くする
・あるヘッジファンドが大きな損失を出し、追加の損失を回避するために強制的にポジションサイズの縮小を図る
・成績の悪いファンドマネジャーがクビになり、ポートフォリオがまとめて処分される


 現在、世界中でマージンコール(追証)の嵐が吹き荒れています。3月の相場の急落で大きな打撃を被ったのは個人投資家だけではありません。今週には、1600億ドル(約17兆円)と世界最大規模の資産を運用する巨大ヘッジファンド、ブリッジウォーターが年初来で20%の損失を出し、マージンコールがかかっているという話も出てきました。同種の話は表に出てきていないだけでそこら中で起きているものと推測され、これが足元の相場の急変動の一因となっている可能性が指摘されています。

 

www.nikkei.com

 

 通常の相場で起こる散発的なアンワインドはさほど問題にはなりません。上がると見込まれる株が売られて割安になり、下がると見込まれる株が買われて割高になるので、これ幸いとばかりにその歪んだ需給は市場に吸収されていきます。

 ところが、これが短期間に集中的に発生すると大変なことが起きます。吸収しきれなかった需給によって期待していたのとは逆方向に株価が動くため、同様の戦略を取っている他のファンドマネジャーの成績が悪化します。そこに急激なボラティリティの上昇などが加わると、リスク管理の観点からポジションの縮小が始まり、アンワインドの連鎖が起きて成績の悪化に拍車がかかり、動きが加速していくことになるのです。

 このアンワインドの連鎖によりヘッジファンドが大打撃を被ったことが過去にもありました。それをまとめたものが「ザ・クオンツ 世界経済を破壊した天才たち」です。

  リーマンショックから遡ること1年前、前回のサイクルのターニングポイントと言われる2007年8月に起きたパリバショックに端を発する、表からは決して見えなかった相場の知られざる大混乱を描いた作品です。

 この中では、ゴールドマン・サックスが運用するヘッジファンド、「グローバルアルファ」がサブプライム関連で巨額の損失を出し、マージンコールによって株式や債券など一緒に運用されていた他のアセットを投げ売りしたことが崩壊の引き金を引いたと結論付けていました。

worldwealth.blog92.fc2.com

 13年前のグローバルアルファが、今回のブリッジウォーターなのかもしれません。この規模のヘッジファンドとなると、ありとあらゆる市場のアセットを複雑に組み合わせて運用していると考えられるので、その影響はどこに出てもおかしくないと思います。

 さて、東京市場に話を戻すと、典型的なアンワインドの動きがNTTドコモKDDIの間で起こっています。この2社はかなり似通った事業を展開していて、基本的には両者の株価の動きはほとんど連動しています。実際、この1ヶ月の値動きも3月11日まではほぼ同じでした。ところが、3月12日以降に両者の動きが真逆になり始めます。

2月20日 ドコモ 3145.0円 KDDI 3409.0円
3月12日 ドコモ 2911.0円 KDDI 3052.0円
3月13日 ドコモ 2873.5円 KDDI 2763.0円
3月16日 ドコモ 2870.5円 KDDI 2859.5円
3月17日 ドコモ 2912.5円 KDDI 2802.5円
3月18日 ドコモ 3015.0円 KDDI 2680.0円

  今日のドコモの株価は+3.52%の3015.0円で、一時は年初来高値まで後6円に迫る3158円まで上昇しました。日経平均が24000円から30%も下落する過程で、まったく下げなかったということです。一方で、ほぼ同じ動きをするはずのKDDIは今日も4.37%下がり、2月20日に比べて21.4%の下落となりました。同期間にドコモは4.1%しか下げていません。

 この1ヶ月の間に、ドコモに決定的にファンダメンタルズ上優位となる材料があったようには思えません。また、市場全体を見渡しても多分これはアンワインドだな、と思われるような値動きがかなり見られるので、これもその一つではないかと思います。

 とは言え、多くの投資家が注目している時価総額上位の銘柄なので、こんなにおかしな動きが出れば、いずれ収斂すると見てセオリー通りのペアトレードを実行した資金もかなりあると思います。しかし、その上で今日の極めつけの値動きです。それらを飲み込むほどの巨大なアンワインドが発生している可能性がありますが、不敗の巨艦ブリッジウォーターですらマージンコールになる相場であれば、何があってもおかしくはないわけです。

 ドコモとKDDIの例はわかりやすいですが、似たような値動きはそこかしこで観測できます。こういう時に上がっている銘柄が優良で、大きく下がっている株が劣っているということでは必ずしもなく、そこには大きなトレーディングチャンスが潜んでいることもあるのです。

 もう一つ、激しくクラッシュしていたのがREITです。東証REIT指数は-8.15%と大幅に下落しました。こちらは地銀を筆頭とした国内金融機関のロスカットだと見られています。特に今日は、午前中は比較的堅調だったにもかかわらず、引けにかけて加速度的に下落が進行。銘柄によっては15%を超える異例の暴落を記録しました。

 値動き的にはなんとしても今日中に売らなければいけない売り、という印象があり、最大手の日本ビルファンドでも売買代金が90億円程度しかない市場なので、今日は流動性を超えた投げに押されたものと解釈しています。全市場のNAV倍率は0.8で、これを下回っていたのはリーマンショック後の1年強ぐらいの期間だけだということです。

 REIT保有物件のタイプや質によって利回りにバラツキがあり、上位と下位の銘柄では数%の利回り差が恒常的にあります。最近まで上位で2%~下位で5%(ホテル除く)くらいの利回りだったのが、たった1ヶ月で40%も下落して、これが3~8%というようなレンジになりました。

 もちろん、今後景気後退によって賃料が下がり配当が減額されるリスクはあって、それを相応に織り込んだ動きではあると思いますが、過去のデータを見てみると、リーマンショックから1年半くらいはピーク時の配当額が引き続き出ていることがわかります。賃料は今日明日にいきなり下がるものではないので、織り込むにしても早すぎるのではないかと思います。

 また前回と違って今回は金融機関の足腰も強くなり、REIT自身も負債を長期にして安定度を高めているので、破綻などを想起するのはあまりにも行き過ぎていると思いますし、過去とは長期金利の水準が違うので、その点も考慮する必要があるでしょう。ここで投げている人がなにか自分の知らない悪材料を知っているというよりは、素直に地銀の機械的ロスカット説を信じる方が真実に近いのではないかと個人的には感じます。

 この原稿を書いている現在も、ダウは1300ドル安で原油は23ドル台に突入し、VIXは75と記録的な高水準で高止まりしています。プロの運用者はともかく、兼業の個人投資家が入るにはもっと相場が落ち着いてからで良いと思います。

 ただ、こうした混乱期には今回書いたように理由のない暴力的な動きが発生することが往々にしてあり、その背景を知っていれば一見奇妙だったり恐怖を感じるような値動きが別の見え方をしてくることもあります。

 「ザ・クオンツ」に限らず、過去の相場の裏側を明かした書籍はいくつもあるので、興味のある方はこうした機会に読み進めてみると、相場への理解を一歩前に進められるかもしれません。

 

追記:史上最大級の非合理的な値動きとして、下記のような事例もあります。これを忘れちゃいけませんね。

 

 

jp.reuters.com

 

 

ameblo.jp

 


2020年、ネット証券業界に牛丼チェーン化の嵐は吹き荒れるか

ネット証券「手数料ゼロ」過熱 収益の展望なく消耗戦

www.nikkei.com

 

 2020年は、ネット証券業界にとって大きな転機の年となるかもしれない。そう予見する業界関係者がにわかに増えている。その理由は、これまで小康状態にあった株式売買手数料などの値下げ競争が、突如として再燃したからだ。

 詳細な内容は上記日経記事に譲るが、ことの発端となったのは、昨年2月に行われたKDDIによるカブドットコム証券の買収だ。株安により収益が低迷していた時期に、時価総額1860億円というプレミアム価格でTOBを実施。カブコムの元々の親会社であったMUFGと51:49の比率で株式を持ち合う形で非公開化した。

 買収されたカブコムは業界内でどのような立ち位置にいたのだろうか。以下に2012年末から現在までの、主要ネット証券5社の総口座数の推移を添付した。決算期の関係で楽天証券だけが9月時点、マネックス証券は総口座数の開示が始まった時期からの集計となっている。

 

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 意外なことに、松井証券をも下回って万年5位のポジションが定着している。サービス内容などから考えると今更マネックスや松井を選択する顧客はいないとは思っていたが、どうやらカブコムも同様の扱いを受けていたらしい。それにしても、3位以下の横ばいぶりには驚きを隠せない。

 その間に順調に口座数を伸ばし、差を広げ続けているのが王者SBI。そしてここ3年は楽天証券の猛追が目立つ。個人的には楽天証券の存在感をほとんど感じていなかったので、これには驚きがあった。直近2年に限れば、増加率ではなく増加数においてもSBIを上回り業界内で圧倒的な成長を見せている。その背景を探ると、以下のような記事が出てきた。

 

楽天証券が新規口座数を急増させた「デジタル戦略」の中身

diamond.jp

 

 躍進の契機となったのは、17年8月に始まったポイント投資のようだ。投資信託楽天スーパーポイントで購入できるという業界初のサービスで、これによって1億超を誇る楽天IDからの流入が始まった。その後も楽天経済圏とシナジーのある施策を段階的に導入、IT企業のバックグラウンドを生かした情報発信やコンテンツ作りも奏功し、ウェブサイトのPV数は好調に推移しているという。

 これに対抗してSBIも19年7月からTポイントで投資信託が買えるようになった。また、おつりとポイントで投資ができること自体をサービスとした「トラノコ」を運営するTORANOTECなど、フィンテックの文脈からここに攻め込んでいるスタートアップも出てきており、今後このアプローチからの競争は熾烈を極めていくと予想される。

 その観点から見ると、カブコムがKDDIグループに収まったことの意味は大きい。KDDIには巨大なau経済圏があり、独自の決済手段も有している。金融分野においてはじぶん銀行au損保を子会社に持ち、上場するライフネット生命にも25%を出資するなどポートフォリオを拡充してきた。

 業界5位に甘んじていたカブコムを高値で掴みに行ったのも、キャリアならではの顧客基盤やサービスラインナップとのシナジーにより、容易に活性化させられるとの目算があるからだろう。今回の値下げ攻勢を皮切りに、今後も巻き返しのための積極的な手を講じてくるに違いない。

 実は、私は7年前にも同様の記事を書いたことがある。

 

ネット証券業界は牛丼チェーン化への道を辿るのか?

blog.livedoor.jp

 

 かつて、牛丼チェーンが勝者なき値下げ戦争を繰り広げ、デフレの象徴として扱われていたことになぞらえたものだった。だが、この時は相場の大底。アベノミクスが始まったことで株式売買代金は急増し、ネット証券はたちまち高収益を取り戻して株価は数倍に化けた。

 この時点で既に各社の収益の中心は信用取引に関わる金融収入となっていたが、長期金利が当時の1%から0まで低下したことでスプレッドが厚くなったことも収益力の改善を後押ししたと見られる。しかし、そうした追い風も当然これ以上は望めない。

 その間に着々とグループの総合力を活用しようとしてきた勢力と、そうでないところで明暗が分かれ、それがくっきりと表出してきたのがこの1,2年と見ることができそうだが、このように証券が金融、あるいはその領域さえも超えたライフスタイルサービス全般の枠内に取り込まれて総合格闘技化してくると、昔ながらの発注機能しか持たない独立系の立場は急速に苦しくなってくる。

 現在、マーケットで最も低い評価を受けているのはPBR0.9倍のマネックス。2年前はコインチェックの買収で大きく話題を集めて人気化したが、現在はその高値から1/3の水準で、買収前の株価を大きく下回っている。

 しかしこのマネックスが、今後想定される再編において台風の目となる可能性がある。19年9月末の預かり資産を見ると、カブコムが2.21兆円、松井2.31兆円に対して、マネックスは4.10兆円。債券や受益証券を除いた株式だけでも2.70兆円の規模がある。

 それに対して3社の時価総額は、カブコムがTOB時で1860億円、松井2245億円、マネックス713億円と、預かり資産比だけで考えればマネックスが大幅に過小評価された状態にある。

 また、資本の面では創業者の持ち分が既に低く、2014年に資本業務提携を結んだ静岡銀行が25%を握る筆頭株主となっている点も注目に値する。当時の発言などを振り返ると、銀行との連携を図って総合化を志向したようだが、5年経っても具体的な成果には乏しいようだ。

 現在はSBIが地銀連合の取り込みに積極的に動くなど、静岡銀行を取り巻く状況自体が大きく変容していることもあり、プラン次第では渡りに船と考える可能性は十分あるのではないか。

 買い手の筆頭候補はやはりヤフー。昨年はZOZOの買収にLINEとの統合と、市場を驚かす大型のディールを連発。細かいところでは電子書籍のイーブックの取り込み、PayPayでの大盤振る舞いなど、溜まっていたキャッシュと親会社の資本力を活用して、経済圏の拡大に邁進している。

 10月には金融持株会社のZフィナンシャルを設立した。傘下にジャパンネット銀行とYJFXを持ちながら、証券への参入機会があった時に見送るという選択をすることは考えにくい。

 ちなみに、今日現在で私はマネックスのポジションを保有していないことをここに明言しておく。

 マネックスとは対象的な立ち位置にいるのが松井だ。現在の株価866円に対して、足元の四半期EPSは5円台が続く。単純計算ではPER40倍近くになる見込みだが、純利益を大きく上回る配当を約束しているため、利回りは5.2%に達しており、これが株価を下支えしている。

 しかし、再編においてはこの高止まりしている株価が障害となる。16年には米マクドナルドが日本マクドナルドを売却するという話があったが、この時も株主優待に支えられた高株価が問題となって交渉が難航、複数のファンドが関心を示すも成立には至らなかった。同水準の預かり資産を持つカブコムのTOB価格を優に上回っているため、買収の対象となる可能性は低い。

 また、この値下げ競争の影響は隣接領域にまで波及している。カブコムは株式だけではなくFXでも手数料を引き下げており、そのスプレッドはFX専業会社を含めても業界最安値水準となった模様だ。

 従来、株は証券会社、FXはFX会社でという認識がそれなりにあったように思うが、それも今後は変化していく可能性が高い。上場しているFX専業会社の規模感は、トレイダーズが147億円、ヒロセ通商が117億円、マネーパートナーズが82億円と、証券会社に比べると極めて小粒で、単独では打てる手が限られる。こちらも何らかの再編は必須になって行くものと考えられる。

 この10年は世界的な金融緩和と株高の恩恵を享受してきた証券業界だが、ロボアドバイザーなどの新興勢力の台頭、高齢者世代からデジタルネイティブな現役世代への資産移転の本格化など、次のサイクルまでには環境が激変していく。

 一体どのプレイヤーが次代の覇者となるのか、2020年代はその争いから目が離せなくなりそうだ。

「不滅」の名に込めた思い

 2017年暮れ。初めて川崎競馬場を訪れた私が目撃したのは、後にG1を3連勝することになるモンスターの、伝説の幕開けとなる圧勝劇。

 こちらが送り出したダークリパルサーも、新馬、特別と良い勝ち方で連勝していたし、何よりダートの名馬エスポワールシチーの半弟という血統背景を持っていた。

 初のG1挑戦でも、もしかしたら…という期待はもちろんあったが、それも向こう正面まで。常識破りの3角まくりにあっさりと飲み込まれると、希望は直線に入る前に潰えた。

 そう簡単に勝たせてもらえる世界ではないとどれだけわかっていても、落胆の色を消すことはできない。競馬の厳しさが、冬のナイターの寒さと共に思い出に刻み込まれた。

 あれから2年、今年も再び全日本二歳優駿に挑むチャンスがやってきた。出馬するのはインペリシャブル。4戦無敗で重賞を勝ち、南関東の代表として中央勢を迎え撃つ立場になる。

 二歳ダートチャンピオンを決めるこの大舞台に、3年で2度も出られるというのはとても幸運なことだと思う。でも、自分の中では、本当は3年連続となるはずだったという思いが今でもある。

 去年のクリスマスの日に、私はラインハルトという名の馬を事故で失った。2017年のセレクトセールで9200万円で落札した馬で、ゴールドアリュール産駒としては史上最高額だったが、それまでに見てきたどの馬よりも魅力的だったので、私たちのチームはその購買に満足していた。

 育成も順調に進み、2歳の春を迎える頃にはちょっとした評判にもなっていたと言う。ある人は「今すぐ3歳未勝利に出しても楽勝できる」とまで言い、その背中を知る人も「あの馬は怪物だった」と後に語っていた。

 補足しておくと、高額馬を買えば毎回このようになるとは全く限らない。セレクトセールでは1億円を超えて落札される馬が毎年2桁の数に登るが、その多くは未勝利か1勝止まりに終わる現実がある。

 期待された良血馬が、その期待値を保ったままにデビューを迎えられるのは本当に恵まれたことで、自分程度の規模の馬主ではそれを生涯に二度三度と引き当てられる自信は到底ない。だからこそ、その喪失感は計り知れないものがあった。

 もし6月の新馬戦で除外されずにデビューすることが叶っていたら、運命は変わっていたかもしれない。あるいは結末が変えられなかったとしても、その一走で衝撃のパフォーマンスを披露することができれば、少なくとも幾人かには記憶され、彼が生きた証明を残すことができただろう。そう思うと今でも悔しさは消えない。

 それに比べると、インペリシャブルの状況は平凡なものだった。血統的な魅力があり、馬体にも光るものがあったことから期待はされていたものの、春になってもトレーニングのペースが上がってこず、処遇に迷った末に、かねてより温めていた南関デビュー構想の尖兵として川崎に送り込まれたという経緯がある。

 そんなわけで、名付けの時にはそれほど強い思い入れがあったわけではなかった。それよりも、とにかく無事に走って欲しい、これ以上の不幸はもうやめにして欲しい。そんな気持ちが、自分に「不滅」を意味するインペリシャブルという名前を選ばせた。

 その直後、2年前の出走馬ダークリパルサーもまた病気でこの世を去った。「月まで届け、不死の煙」から取られた2頭の名前は、失意の最中にあった私の心の底からの祈りでもあった。

 入厩したインペリシャブルに対し、高月師も当初は慎重な見通しを示していたが、より実践的な環境へ移ったことで本来の能力が刺激されたのか、数週間もするとトーンが一変。

 「この馬走るかもしれないぞ」とのコメントに期待が高まると、あれよあれよと言う間にデビュー戦までこぎつけ、まさかの世代一番乗り。そしてそこからの連勝街道は春先にはまるで想像できなかったことだった。

 いい意味で期待を裏切ってくれたインペリシャブルの活躍は、私たちを大いに勇気づけてくれた。自分たちのやっていることが間違いではないのだと馬が教えてくれたし、無敗でG1に臨む機会なんて二度とはないかもしれない。そう思えば、この1ヶ月の期待と不安の入り混じった緊張感も、人生の貴重なワンシーンとなるだろう。

 そんな日々も明日で一区切りを迎える。今年は中央の有力馬に除外が多く、地方馬にとっては例年になくチャンスだと見られている。それでも交流重賞を勝ってきた中央馬の壁は分厚く、特にこれまでに川崎の馬が勝った歴史は存在しない。

 そこに新たな1ページを加えることができれば、インペリシャブルの名もまた不滅のものとなるかもしれない。ここに出ることの叶わなかった天才の分まで、激走を期待したい。