「ずっと、この出会いを待っていました」 ワールドエンドエコノミカ、アニメ化に向けたクラウドファンディングに際して

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 11月14日の16時から、ワールドエンドエコノミカのアニメ化を目指すクラウドファンディングが始まりました。24時間経過した現在、日本では目標を大きく超過する800万円、海外でも200万円を超えるご支援を頂戴しています。応援して下さった皆様に深く感謝申し上げます。おかげさまで一つの目安をクリアすることができましたが、ご支援の金額、動画の再生数、コメントの一つ一つまで、すべての指標がこのプロジェクトを後押しする力となります。どうぞ引き続き拡散にご協力いただけますと幸いです。

 

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 この作品がどんなに素晴らしいか、それは他に語ってくれているファンの方が大勢いらっしゃるのでそちらにお任せすることにして、今回は私個人がこのプロジェクトをなぜ仕掛け、どのようなゴールを目指しているのかについてお話したいと思います。

 

 作者の支倉凍砂さんを知ったのは2008年の頃。知人の紹介で、後に代表作となる狼と香辛料を読んだことが始まりです。投資家としてはまだ駆け出しで、経済や金融に関することなら見るもの全てが新鮮で楽しく感じられた当時の私は、中世を舞台に商人が知恵とお金で強大な敵や組織と戦っていく異色の冒険譚にドハマリしました。作中に出てくる独自の様々な硬貨がお気に入りで、貴金属店で現実の金貨を買い求め、ホロのフィギュアと一緒に飾っていたこともあります。
 
 特に感銘を受けたのは、小説3巻で繰り広げられた黄鉄鉱の空売りの話です。「買いは家まで、売りは命まで」という相場格言がある通り、空売りの損失は理論上無限大。過熱した相場に踏み上げられることの恐ろしさは実際に体験した者でなければわからないものがあるのですが、その心理描写を小説のストーリーや設定と巧みに絡めて見事に表現してみせた手腕に、私は深い感動を覚えました。
 
 そのことがきっかけで支倉さんのブログなどもウォッチし始めたのですが、いかにも作家さんらしい日常風景の雑記に紛れて、それなりの頻度で株や商品先物の話が出てくるのです。そういえば二巻のあとがきの時点で既に、「賞金の半分を某銘柄に突っ込んだ」などと不穏なことが書かれており、その後も香港株に手を出してみたり、金融危機のさなかにはアメリカのAIGを掴んで作家仲間と大騒ぎしていたりと、並々ならぬ好奇心と行動力を発揮してマーケットにどっぷりと浸かり込む姿を発信されているのを見て、私はますますファンになってしまいました。
 
 その頃の私は、専業投資家として生活する傍ら、株関連のコンテンツをニコニコ動画や同人誌という形で発表していました。それで、2012年冬のコミックマーケットで支倉さんのサークルがあることを知り、きっとこの方なら自分の拙い作品でも面白がって見てくれるに違いないと思い、本人不在のブースで売り子さんに頼んで本を渡してもらいました。
 
 すると驚いたことに、翌年の夏のコミックマーケットで支倉さんが私のブースに来訪され、返礼にと彼のサークルの作品を手渡してくれました。何を隠そう、それこそが今回のワールドエンドエコノミカだったのです。いちファンでしかなかった私は恐れ多くもそれを受け取り、一緒にいただいた名刺を後生大事にしまっていました。まさか、そこに記されたメールアドレスがこのような事態に繋がる細い一本の糸になるとは、その時にはもちろん知る由もありませんでした。
 
 それから数年が経ち、好調なマーケットと多くの幸運に恵まれて、私は100億円を超える資産を形成することになりました。もともとお金持ちになりたいという動機で株を始めたわけではなく、根は数年間ネトゲ廃人をやっていたような気質です。
 
 物欲もなく、外出は嫌いで消費とは無縁の人生を送ってきた自分が、しかし現実には大きな力を持っている大金を手にしてみて、果たしてこれをどのように活用していくべきか。スタートアップに出資したり、シュバイツェルインベストメントと言う名の運用会社を設立して後進の育成に携わるなどしているうちに、ふと昔の自分がやりたかったことを思い出しました。
 

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「投資はもっと、おもしろい」
 
 これは私が自分の同人サークル、「東証Project」の活動を通して伝えたかったメッセージです(白ビバさんはこの時の合作パートナー)。しかし、一介の個人投資家から立場を変えて相場の奥の奥まで踏み込んでいくうちに、表からは決して見えることのなかった様々な真実に触れるようになり、いつしか無邪気に誰かに投資をすすめることができなくなっていました。ですが、私は自分をこの世界にいざなってくれた偶然の出会いへの感謝を一日として忘れたことはありません。
 
 それは2002年のある日、私がたまたま自宅のテレビの前を通りかかった時に起こりました。タイトルも内容も知らないドラマのワンシーン、しかしその緊迫した雰囲気に私は思わず足を止め、見入りました。植木等が演じる老相場師が、倒産寸前の企業を買い支えて救うという場面です。もう無理です!と叫ぶ証券マンの制止を振り切ってなりふり構わぬ買いを入れ、ギリギリのところで上場廃止を回避させる。前後の文脈は全く知らなくとも、その鬼気迫る表情、得も言われぬ迫力に私は引き込まれました。それが、私が人生で初めて見た「投資家」の姿でした。
 
 それから3年、ふとしたことからこのドラマが「ビッグマネー! 〜浮世の沙汰は株しだい〜」であったことがわかり、私は頭から見直しました。それはもう1話から興奮の連続です。時折、なんとなく付けていたテレビから株価ボードや相場解説が流れてきても全く何も感じなかったのに、ビッグマネーを見終わった時にはすぐにでもマーケットの世界に飛び込みたくて仕方がなくなっていました。それ以来、私はずっとこの世界で生きてきました。
 
 その、本当に完全な偶然の出会いによって私の人生は大きく変わりました。わずか数十万円の元手で口座を開いた当初の自分には、どれほどの想像力を働かせてみても今のような状況を思い描くことはできなかったでしょう。ですが、それは自分に相場の特別な才能があったからとは思いません。戦国時代の猛将が現代に生まれても活躍の場がなかったように、あるいはそれまで埋もれていたエンターテインメントの才能がYoutubeで開花したように、成功とは常に時代というスポットライトを浴びることなくして生まれることはありません。
 
 私がこのキャリアをスタートした2005年は、ライブドア村上ファンドが耳目を集め、日本中がデイトレブームに沸いた熱狂の頂点でした。もう少しタイミングが早ければ、そもそもオンラインで手軽にトレードをするという機会が存在しなかったし、遅ければリーマンショック後の荒廃したマーケットの中で、相場のポテンシャルを体感することなくその場を去ることになっていたかもしれません。日本の株式史上、最も良いタイミングにたまたま自分が株を始めることができた、その幸運が全ての前提にあります。
 
 私はこうも考えます。ウサイン・ボルトよりも足の早い人間は、この地球上におそらく存在しないと。なぜなら、走るという基礎的な身体能力を試す機会は必ず存在し、その才能が見いだされないままに終わる可能性は極めて小さいからです。しかし、株の運用はどうでしょうか?学歴で厳しく選抜されたごく少数の中から、たまたま運用部に配属された何人かだけがその能力を試す機会を与えられます。その人類全体から見ればあまりにも小さなプールの中に、本物の才能がいる可能性がどれほどあるでしょうか。私たちは社会の仕組みによって、年金や保険などを通じて否が応にも相場に参加させられているのに、その大事な大事なお金の運用を、本当に能力があったかどうかも疑わしい極めて少数の人材に委ねているのです。この構造そのものが、システムに気付いた者に際限なく富を供給する装置となっているわけです。
 
 もちろん、自分はとんでもない株の天才なのではないかと勘違いした時期もありましたが、長いあいだ相場と向き合い、こうした事実に気が付くうちに、いつしか自分は相場に勝たせてもらっているだけなのだと思うようになりました。そして、こうして勝たせてもらっている以上、この幸運をいずれ何かの形でお返ししなければならないという気持ちが強くなっていったのです。
 
 そんな中で今から2年前に、将棋の藤井聡太さんが驚くべき連勝記録を打ち立て、若き天才現るとしてメディアで華々しく取り上げられる現象が起きました。知人の一人がプロ棋士を目指していた関係から将棋教室の役員をしているのですが、このプチブームによって多大な恩恵を受けたと言います。将棋のような地味な業界でも、たった一人のヒーローが現れることで世界が大きく変わることがあるのだと言うことを目の当たりにしました。
 
 そういえばかつて囲碁でも、マンガ「ヒカルの碁」が社会現象となって入門者が増加したという話があったし、私が子供の頃は伝説的なバスケマンガ「スラムダンク」に刺激された同級生の多くがバスケ部に入るということがありました。また、サッカーでは「キャプテン翼」に影響を受けたプロ選手も数多くいると聞きます。そして私が相場の世界に足を踏み入れるきっかけとなったのは、ドラマ「ビッグマネー」でした。
 
 もしかするとここに答えがあるのかもしれない。そう思った私はオフィスの片隅に積まれていた「ワールドエンドエコノミカ」の小説版を手に取り読み始めました。私が引き出しの奥にしまってあった支倉さんの名刺を取り出したのは、それからしばらくしてのことです。
 
 日本では投資教育がなかなか進まないと嘆く声が長く聞かれてきました。そのためにあの手この手で努力を続けている人たちもいます。でも私は思うのです。格式張った投資哲学を1万回唱えるよりも、型破りでも、たとえそれがファンタジーの上であっても、相場の「おもしろさ」を最高の形で表現してみせれば、それによって心を動かされる人は遥かに多いのではないか?と。
 
 私の友人でも、ドラマ「ハゲタカ」に魅せられて投資銀行を志した業界人が何人かいます。映像やコンテンツの伝える力、メッセージ力はとても大きく、時としてそれは世界を一変させるほどの効果を持つことさえあります。それまでどれほど頑張っても届かなかった声が、たった一つの作品によって壁を打ち破ることがあります。
 
 これまでにいくつもの株や経済をテーマにした作品を見て来ましたが、ある物はエンタメに寄りすぎていたり、ややもすれば説教臭さを感じてしまったりと、その作品そのものとしては素晴らしい出来だとしても、世界を動かす存在になり得るという感触までは持つことができませんでした。
 
 でも、ワールドエンドエコノミカは違いました。現実に起きた事件を題材としたストーリーを、ファンタジーの世界観の中で必要十分なリアリティを保ちながら表現しきったその絶妙なバランスは、間違いなく支倉さん以外に生み出すことはできないでしょう。これは、稀代のファンタジー作家が相場を心の底から愛し、ただ自分が書きたいがために書いたことによって生まれた唯一無二の傑作であり、これ以上の原作は後にも先にも現れることはないだろうと思います。
 
 私からすれば、この作品は日本の投資を変える力を秘めた、いわば天から授けられた一発限りの銀の弾丸。この最初で最後の機会を後押しするのは、この時代に生かされた投資家としての使命なのではないかと思うのです。そしていつか、出来上がった作品を見て心を動かされた若者が投資家として良い行いをしてくれたら、その効果はこれから投じようとしている数億円の何倍、何十倍にもなって返ってくるでしょう。これほどにレバレッジの効く投資を私は他に知りません。
 
 とはいえ、私ができるのは最初の火を付けるところまで。それが世界を変えるほどの熱量を持つか否かは、関わってくれる全ての人たちの力にかかっています。繰り返しになりますが、ワールドエンドエコノミカの映像化は、今後二度とは来ない貴重な貴重な機会だと私は考えます。ですから、もし駄作に終わるようであれば最初から作らない方がいい。ただお金の力によって作品になることが目的ではないのです。
 
 それが、今回のクラウドファンディングを実施した理由です。クリエイターの人たちは、自分たちの名前を背負って作品を作っています。どんな事情であれ、作ったものは彼ら自身の作品としてクレジットされるのです。ただお金だけを用意して、これをアニメにして欲しいと頼んで良いものができるほど、今のアニメ業界は暇を持て余しているわけではありません。最高のチームを迎え、本気の熱量を持ってこれ以上ないというものを作り出してもらうには、できるだけ多くの人に存在を知ってもらい、この作品が世に出ることを望んでいる人たちがこんなにもいるんだということを示さなければならない。それこそが、私の目指す真のゴールへと繋がる道であり、私なりのこの世界への恩返しの仕方だと思っています。
 
 最後になりますが、今日お伝えさせていただいたことは全て私のエゴ、個人的な思いです。もしかすると、このプロジェクトの裏にこうした意図があったことを知って不愉快になる方もいらっしゃるかもしれません。申し訳ありません。でも、せっかく作るなら歴史に残るような作品にして送り出したい、その気持ちはきっと共通だと思います。シンプルに、動くハガナやエレノアの姿を見たい、ハルとバートンの戦いを見てみたい、そんな思いで応援してくださる方の気持ちは必ず作り手にも伝わるはずです。ですからぜひ協力をお願いします。みんなで最高のワールドエンドエコノミカを作り上げるために。