株式ディーリング事業の立ち上げに伴い、人材を募集します

※募集期限を6月30日18時に変更しました

 

 個人投資家の片山晃です。株式会社レッドマジックの代表を務めています。私は2005年から株式投資を始め、これまで相場で一定の実績を収めてきましたが、世の中の変化と自身の限界に対応するため、新たに株式ディーリング事業を開始することにしました。

 過去18年間の経験から、どうすれば株で勝ち続けることができるのかということについては完全に理解しているつもりです。しかし、長年染み付いた習性や性格的なものもあり、未だにそれを完璧に実行しきれているとは言えません。

 私が株を始めた2005年は国内オンライントレードの草創期で、まだTwitterなどもなく、各自がパイオニアとして手探りで知識を吸収し、主には実戦の経験を通じて相場のノウハウをまさに体得していく時代でありました。

 ですが、今はSNSや勉強会などを通じて多くの投資家の実際のポジションや思考を垣間見ることができ、またネットには匿名のプロも多数いて活発に情報発信していることから、素質に恵まれた投資家が素早く育つための栄養素が豊富に存在している状況にあります。

 こうした土壌がある限り、優秀な若手は次々に現れます。そこに、今年で41になる私がプレイヤーとして対抗するよりも、むしろそれを生かして次代の異才を育て上げる方が効率的だし価値も高いだろうという判断が、この事業の根幹を成しています。

 もちろん、私自身もまだ向上を諦めたわけではなく、プレイヤーとして高みを目指したいとは思っていますし、そうでなければこのチームは勝てないでしょう。マネジメントが一流のプレイヤーであるということを我々は武器にしたいと考えているからです。

 しかし、最終的には私を遥かに超えていく存在が輩出されること、それがこの事業の目的です。好奇心、柔軟性、そして何より情熱や貪欲さにおいて、若さは最大の武器です。それを持った可能性のある若者に、我々が長年をかけて培ってきた相場の体験を惜しみなく注ぎ込むことで、自分ではたどり着けなかった理想とするトレーダーが現れてくれることを期待します。

 一般には明かせないので、詳細は採用ステップのどこかでお話することになりますが、かつて多く存在したものの今では廃れてしまったこの事業を今更立ち上げるからには、我々には競合との違い、勝つための人材や環境、ノウハウが既に存在し、実践もしています。事業として大きく成功するイメージが明確にあります。

 生き残った者には全員億の資産を稼がせる。それぐらいの自信と覚悟が備わっています。ただし、ここに来れば誰でもそうなれるというわけではありません。成功するためには厳しい淘汰と選別を繰り返す必要があります。人生の大きなリスクを取って転職したのに、才能がなく半年で放り出されてしまったということになる場合もあるでしょう。

 それでも、相場には人生を賭けるだけのポテンシャルがあります。私が専業投資家になる前の仕事は手取り13万円で、辞めて株に専念する時の資産は200万円でした。それが100億円を超える資産を手にすることになったのは、紛れもなく相場の持つ大きなポテンシャルによるものです。

 そして相場は全人口80億人と対戦する世界最大のオンラインゲームでもあります。好き嫌いはありますが、ハマればこれほど面白いと思えるエキサイティングな体験はありません。私もお金を稼ぎたいというよりは、ただ楽しいからという理由で他のすべてをなげうって没頭し、その結果として資産がついてきたというのが実態です。

 どちらからのアプローチからでも相場は成功できます。とにかく大金が稼ぎたくてそのためには死ぬほど頑張れる人、株が面白くて面白くて仕方なく寝食を忘れてしまうような人、まだそこまで相場の魅力には気付けていないけどハイレベルな投資の現場に身を置いてみたい人、どなたとの出会いも我々は歓迎します。ご関心のある方はぜひ下記フォームからご応募ください。

 

応募資格

千代田区のオフィスに勤務できること
半年以上の個人投資家、もしくは1年以上のバイサイド、セルサイドでの実務経験
(通年で募集する予定なので、未経験の方は今すぐ口座を開いて半年後に応募してきてください)

募集期限は2023年6月30日18時、選考に通過された方には追加の質問を含めた返信を7月末までにさせていただきます。人数は3名を計画しています。

 

docs.google.com

 

覚醒物質オレキシンと血糖値の関係、食後の眠気との戦い

 睡眠薬を使っている、という話はあまり積極的には公にしたくない感じがある。ヤフーリアルタイム検索でツイート数を調べてみると、「睡眠薬」と「眠剤」を合わせて1日2500件程度。たくさんいるような、思ったよりも少ないような微妙なラインだ。
 
 ただ、今回は十数年に渡って悩まされてきた「食後の異常な眠気」をどうにか制御できるかもしれないという自分にとっては非常に興味深い気付きだったので、誰にあてるでもないが記録に残しておこうと思った。
 
 睡眠薬にはいくつもの種類があり、入眠の支援を目的としたもの、睡眠中の覚醒を防止するためのもの、精神安定を主な効果とするものなど、狙いによって使い分けがなされる。
 
 このうち、自分はマイスリーというメジャーな入眠支援タイプを使っていて、用量は5mg。ほとんど効いているかどうかもわからないおまじない程度の強さで、特に困っていないのでこれ以上強くするつもりもない。
 
 長期服用に関する副作用については諸説あり、家族は当然反対している。自分もその点に懸念を持たないわけではないものの、株で生きるか死ぬかの生活を続ける者にとって夜きちんと寝られるかどうかは人生を左右する重大事であるから、そう簡単にきっぱり辞めることもしづらいという事情がある。
 
 ところで、最近そのマイスリーが切れたため、あるクリニックへと赴いた。そこに行くのは1年ぶりだったので雑談も交えつつ、他に何かいい薬は出ていないのかと聞いてみると、より依存性の低いベルソムラというのがあるという。まさに上記の懸念に対するアンサーだったので、渡りに船と早速試してみることにした。
 
 しかし、残念なことにこれが自分には全く合わなかった。睡眠薬で合わないというと大抵効かない方だと思うが、今回のケースでは異様に効きすぎて翌日午前くらいまで何も考えられないような状態が続いてしまった。何度か試してもほぼ同様の結果だったので、たまたまとは考えにくい。お陰で株で失敗することもあったし、危険性が高すぎるためもう使うことはないと思う。

 それで、これは一体どういうことだろうと調べてみたらオレキシンという物質に行き着いた。処方された時には最近出た新しいタイプの薬ぐらいにしか聞いていなかったのだが、なるほどアプローチが全く異なる。
 
 オレキシンというのは要するに起きているために必要な物質で、マイスリーのように無理やり眠らせに行くのではなく、そちらを抑えることで起きていられなくするというやり方のようだ。もともとある物質を阻害しているので、人体にとってもより自然な働き方と捉えることもできるらしい。

 このオレキシン受容体拮抗薬には2014年にMSDから出たベルソムラと、2020年にエーザイから出たデエビゴがある。実はデエビゴの方は別のクリニックで出されたことがあり、その時も全く同じような症状が出ていた。何のことはない、作用が同じなのだからそうなるのは当然の帰結であった。
 
 ただ、これらの結果から自分がオレキシンの抑制にはめっきり弱い体質であることがハッキリした。そして調査しているうちに偶然出てきたのが、食後、満腹時の眠気にもこのオレキシンが関係しているという説である。
 
 詳細は各自調べてもらいたいが、人には空腹時には生存可能性を高めるためにオレキシンを放出して覚醒度を高く保ち、食後にこれを落とすというメカニズムが備わっているようだ。実際には、血糖値の上昇に伴ってオレキシンの分泌が低下するという動き方をする。
 
 さて、冒頭で書いたように自分は20代後半あたりから、食後に出る起きていられないほどの病的な眠気にずっと悩まされてきた。それも朝と昼はそれほどではなく、夜にだけ強く発生するというもので、このため夕食の量を軽くしたり、水分を多く取る、炭水化物は除くなどの工夫をしてどうにか対処法を探ってきた。
 
 その中でも近頃有用だと感じているのが、食前にレモン果汁を摂取するという方法である。レモン果汁には食後に上昇する血糖値の最大値を抑制する効果があると聞いてから、「ポッカレモン100」30ccを食前に飲むようになったが、体感としては確かに以前ほど眠くならなくなった。
 
 それで、やはり敵は血糖値だったかと納得していたのだが、このベルソムラの一件によってその見方が覆された。恐らく鍵を握っているのはオレキシンの方だ。
 
 それにしても、こんなことに何故今まで気付かなかったのだろうと考えたが、オレキシン自体の発見が1998年と遅く、関連する薬が上市されたのも2014年が初なので、まだそれほど一般に理解が広まっていないのかもしれない。
 
 日経メディカルの実施した医師会員への最新のアンケート結果によると、国内の睡眠薬市場ではデエビゴとベルソムラが急速にシェアを拡大して最主流の地位を占めるようになっており、大きな変化が起きていることが見て取れる。これを逆手に取って、オレキシンを増やすことで有用な効果を得るための研究や開発も既に行われているようだ。
 
 今回はまだキーワードを得ただけだが、正確な狙いが定まったかもしれないというだけでも自分の中では大発見だった。今後はオレキシンの制御に絞った工夫を重ねることでQoLの向上が図れると思うと非常に楽しみである。

モダリス株の制度ロックアップ違反に関する補足と今後の対応について

 モダリス株の制度ロックアップ違反を起こしてしまった経緯について、補足として詳細にご説明します。

 

 まず確約書について、私が2019年4月に株式の割当を受けた際、上場日以後6ヶ月を経過する日までの間に売却しないことなどを内容とする確約書をモダリスと締結しています。しかし、モダリス上場の時期にはこの確約書の存在について、本当に完全に失念してしまっていました。

 その後、2020年8月のモダリス上場後、自分の持ち株がロックアップ対象であるかどうかを確認するため、有価証券届出書の13ページにある「ロックアップについて」の箇所を参照しました。

 この当時、私はこの上場直前に割り当てを受けた株主の短期利得行為を規制する制度ロックアップというルールに関して認識しておらず、ロックアップといえば、有価証券届出書の「ロックアップについて」の箇所に株主名が記載された任意ロックアップのことのみを指すものと誤解していました。

 そのため、「ロックアップについて」の箇所に自分の名前の記載がなかったことから、今回はロックアップ対象外であると早合点をしてしまいました。

 また、以前に他の銘柄で上場を迎えた時には、上場の直前にロックアップレターを差し入れ、それが任意ロックアップの対象として有価証券届出書に記載されていたという経験がありましたが、今回は同様のレターの差し入れが上場の直前になかったこともあって、やはり私の保有するすべての株式がロックアップ対象外であると誤認してしまいました。その結果、市場にて保有株を売却してしまったものです。

 以上の経緯はまったく私の不注意と不勉強に起因するもので、実際の売却の前に、ロックアップについて発行体や主幹事証券への事前確認を怠ったことは大きな誤りであったと深く反省しています。今後はどのようなケースにおいても売却時には事前確認を行うことで、再発を防止します。

 どうしても後出し気味のお話になってしまうのですが、今回の最低限のけじめのつけ方として、この市場ルールへの重大違反によって得られた利益を私が受け取ったままにしておくことは絶対にできないと考えています。これを何らかの形での返上ができないか、本日の開示後より、今回関係者の皆様に相談に乗っていただいているところです。

 今回は本当に言い訳のしようもありません。モダリス関係者の皆様、市場参加者の皆様に改めて深くお詫び申し上げます。

 

 制度ロックアップと任意ロックアップの違いについては、下記のサイトをご参照ください。

上場前の資本政策とロックアップ – Rusty

モダリス株の制度ロックアップ違反に関するお詫び

  この度、以前より保有していたモダリス株の売却の一部が、取引所の定める制度ロックアップに違反していたことが判明しました。

 市場の規律を乱す事態を引き起こしてしまったことを、心よりお詫び申し上げます。

 具体的な内容に関しては、モダリス社による開示をご確認ください。

https://www.release.tdnet.info/inbs/140120210324483240.pdf

 

 本件に関する詳細と経緯について、モダリス社および取引所への報告を行っています。

 自らの無知と不注意により、他の市場関係者の方々にご迷惑をおかけしたことを深く反省し、今後は二度とこうした事態を招くことのないよう、取引所に報告した再発防止策を徹底して、市場ルールの遵守に努めていく所存です。

バーチャルトレーダーの罪深さ

 その昔、2chの投資一般板に、常に信用全力で派手な取引を繰り返す人気のコテハンがいた。彼の書くブログはランキングでも上位で、多くの読者を惹きつけていた。

 余人には真似できないダイナミックな資産の増減。それが注目を集める要素であり、コンテンツの中心であった。

 仕手株個人投資家に人気のテーマ株など、ボラティリティの高い銘柄を主に手掛け、時には激しいドローダウンに見舞われることも幾度となくありながら、ここ一番では大ロットの底値買いを決めて奇跡のような復活劇を繰り返し、最終的にその資産額は増え続けていった。

 デイトレブームの到来で経験の浅い個人投資家が大量に生まれ、まだ情報ネットワークも未整備だった時代、彼のような草の根のカリスマに憧れるトレーダーは少なくなく、自分もしばらくはその読者の一群に加わっていた。

 ただ、ある時にふと疑問に思うことがあった。大きくやられた後の戻し方があまりにも都合が良すぎるのだ。しかも、そういう時は大抵含み損からの底値倍ナンピンによる脱出というパターンが多かった。

 値動きの激しさは、欲や恐怖を煽って人を正しい判断から遠ざける。そこにレバレッジがかかっていれば、のし掛かる精神的な負荷は加速度的に増大する。

 それなのに、彼は追い込まれるほどに集中力を増しているかに見えた。普通なら折れて投げてしまうようなところを、いつも不思議過ぎるほどの沈着さで完璧な買い増しを敢行して窮地を切り抜けていた。

 マンガやアニメのキャラクターならそれでいい。しかし生身の人間にそんな能力が備わることがあるのだろうか。しかも一度や二度ではなく、毎回そうなのだ。

 ほどなくして、資産報告スレで常勝を誇っていた緑地公園というコテハンがバーチャルであったことを告白したという話を聞いた。投資界隈におけるいわゆる"バーチャ"、すなわち嘘の報告を行って勝ちを偽装している者の存在を、自分はそこで初めて知った。

 それまで想像もしていなかったバーチャという存在。その概念が頭にインプットされた時、ごくごく自然な発想としてある考えが浮かんできた。ひょっとして、彼もバーチャなのではないか?

 それからそういう目線で見てみると、彼の報告があまりにも不自然に都合よく作られたものに見え始めた。お得意の底値買いにしても、その価格の流動性がほとんどないというポイントで見事に反転を捉えていることになっているケースが非常に多いことがわかってきた。

 こんなことは絶対にありえない。なぜなら、そんな芸当ができる投資家ならそこまで追い込まれる前に、もっと楽に勝っているはずだからだ。彼は話を盛り上げるために取引をでっち上げている。様々な状況証拠から、自分はそのように断定した。

 その後、彼が借金の申込みを方々でしているという噂が流れたこともあり、いつの間にか世論も自分と同じような見方をするようになり、いつしか彼はネットから姿を消した。今から15年も前の話である。

 マーケティング、虚栄心、承認欲求、あるいは単なるイタズラ。SNSがあらゆる人に行き渡った現在、世の中には様々な動機によって、より巧妙にウソをついて自身の影響力を高めようとする人々で溢れかえっている。

 私はネット上に流布されるウソが、人が考えているよりも遥かに社会にとって有害だと思っているため、この風潮には強い嫌悪感を覚えている。

 先程の例を取ってみれば、彼は本来なら成功し得ない無茶なトレードをバーチャとして繰り返し、あたかもそこに道があるように見せかけることで、腕さえあればあんな取引ができるはずなのだと多くの者を錯覚させてしまった。

 本当は誰にも渡ることのできない吊橋があって、その向こう側で偽りの勝者が宝物を手に囁く。さあ渡ってごらん、君に勇気と実力があるなら、きっとこの橋を渡りきれるはずだ、と。本人にはそんな意図はなかったかもしれないが、私には彼のしたことがそれほど残忍な行為に思えたのだ。

 人の意識は生まれた時は空っぽで、人生の中で色々な体験をすることでその輪郭が形作られていく。火を扱う時には注意するべきだとか、雨の日には少し慎重に歩いた方がいいとか言うことは生まれながらに知っていたわけではなく、体験を通して必要だから学んでいくのである。

 緑地公園という人の話を聞くまで、自分はバーチャという存在を知らなかった。ジェイコム事件が起きた後で初めて、株に誤発注という可能性があることを認識した。そして、そこでBNF氏が大儲けをした、その結果、資産額が3桁億円にも登るらしいということを知って、本気で投資家としてやっていきたいと考えた。あの一件がなければ、株にそれほどのポテンシャルがあると知らないまま別の人生を送っていたかもしれない。

 ある出来事が人の意識を作り変え、それが人生そのものに影響を与えるようなこともあるのだ。

 これはポジティブな影響の例だが、逆も当然ある。知らぬが仏という言葉もあるように、何かに対して過剰に恐怖や不安を植え付けられた結果、しなくてもいい悩みや心配をし、不要な備えをしてしまうこともあるだろう。その原因が事実に基づかないものだとすれば、そこに意識を持っていかれることに意味はなく、単に生きづらくなってしまっただけに過ぎない。

 耳目を集めるために少々"盛る"行為は、SNSでは必須のスキルとなっていると考える人もいるかもしれない。だが私には、今のSNSを中心としたインターネットが小さな虚飾に対して強いインセンティブを与えすぎているように思える。

 個々人が自らの目的を果たすために小さな虚飾を重ねた結果、人々の意識をありもしない幻想が支配し、それが多くの人の行動という現実に作用することがあるのだとしたら、これほど恐ろしいことはない。

 そしてもし、ウソを付くことが人に生来備わった行動原理で、SNSがそれを増幅させている"だけ"なのだとしたら、それこそ救いがたい悪夢だ。

 銀河英雄伝説の中で、ヤン・ウェンリーはこう言った。

「人類が火を発見してから100万年も経つのに、未だに火事はなくならない。近代民主主義が成立してからまだ2000年足らずだ。結論を出すには早すぎると思うな」

 例えどれほどの時間が必要だとしても、これが人とSNSの持つ致命的な欠陥ではなく、正しい扱い方を学ぶことで修正可能な課題であることを願うばかりだ。

dely堀江さんのnoteを読んで

note.com

 

 私は以前から、クラシルを運営するdely株式会社の堀江裕介さんに注目していた。何故かと言えば、クラシルが今のような凄いサービスになると予見したからでは決してなく、むしろその逆である。

 

 実は彼とは大昔に1度だけ会ったことがある。スタートアップがプレゼンをする集会に誘われて顔を出した際、当時は祖業のフードデリバリー事業を手がけようとしていたdelyがたまたま発表を行っていた。低頻度とは言え、私がまだそうした場に関心を持って出かけていっていた頃だから、2014年前後のことだと思う。

 

 私の第一印象は、よくこんな事業を選んだなと言うものだった。コロナの影響もあり、今でこそフードデリバリーは社会に浸透しつつある。しかし当時としてはやはりまだ早いという感覚で、恐らく仕上がりの利益率も低く、かつ軌道に乗るまでの先行投資も多額に上ることから、本業とのシナジーのないスタートアップが単体で取り組む領域としてはあまりにも厳しいのではないかとの感想は拭えなかった。

 

 ただ、今と変わらない眼光の鋭さを備えた堀江さんは独特の自身をみなぎらせていて、事業そのものに対する評価とのギャップが返って私に強い印象を与えた。それでその後もしばらく彼のことはどうしてか記憶に残っていたのである。他の参加者がどのようなプレゼンをしていたのかは今となってはほとんど覚えていない(アルパカの横川さんと知り合ったのもそこだったような気もするが、別の回だったような気もする)。

 

 やはりと言うか、最初の事業はしばらくして立ち行かなくなったようだった。だが驚くべきはそこからだった。資本の再構成はあったらしいものの、会社を変えずに彼は事業を模索し続け、社員離散の憂き目を乗り越えて今日に至るまでの大逆転のストーリーを描いてみせた。その過程では、ヤフーへの株式譲渡で投資家にも多大なリターンをもたらしている。

 

 果たして、未だ30歳にもならない若者がどうしてそんな大事を成し遂げられたのか。最初の姿を見ていただけに、クラシルが凄いらしいという噂を聞くにつれ、彼に対する興味は募っていった。と同時に、人の、特に若い人の変化に対して自分はもっと可能性を感じるべきではないかという考え方を持つようになり始めた。

 

 その答えの一端を、今回のnoteで垣間見れたような気がした。

 

他にもCMの資金が必要で売上0の会社が2ヶ月で10億、年間で35億近くの広告宣伝費を使った年。社長の私は資金調達という大将戦をしていました。まだ24歳だった私は人脈も全くありません。一方で競合は業界の大先輩ばかり。どう考えても勝てるはずない戦いですが結果的にはこの戦いにも勝ちました。僕は途轍もない執念を持って戦っていました。とにかく会う人会う人にインパクトを残し続け、あの男は凄いと投資家の方々から信頼してもらうためにあらゆることをやり続けました。競合企業の社長の考えていることをチェックするためにTweetのfavを毎日チェックし、誰と絡んでいるか、FBで誰と今日繋がったなども逐一チェックし、それが著名VCであれば一目散にアポを取り、delyが絶対に勝つ理由を説明しその資金調達や提携を全てdelyに引き寄せました。

 

 本人も言うように、この執念の強さはただごとではない。しかもその方向性が、会社の代表として今何をすべきかというベクトルが、正しくゴールに向けられていながらも、その姿を想像すると少し笑みがこぼれてしまうような、しかし常人にはなかなか思いつきそうもない奇抜な発想と細かな作業によって実行されていることに思わず感心してしまったのだ。

 

 この執着心が、ここまでの過酷な体験から生まれたものなのかどうかはわからない。あるいは、最初の躓きがなくずっと順境にあったなら、今の堀江さんは存在したのかどうか。それは本人にしかわからないこととは思うが、同じように勝負に勝ちたいと望みながらも、ここまで物事を詰めきれた人のことを自分も含めてそう知らないだけに、この一つのエピソードを知っただけでも様々に考えさせられることとなった。

 

 また、これは完全に個人的な価値観のことに過ぎないが、最近の組織論や度々されているゴミ拾いの話など、堀江さんの日頃のツイートなどを見ていても、同じ常識破りにしてもそれらが基本的には内側に向いているというか、よくある他者を押しのけてまでの過度な自己利益の追求に寄っていないような印象があり、そこも共感できるポイントとして非常に大きい。

 

 外部から見れば彼やクラシルは一定の成功を収めているように思えるが、恐らくdely自身としてはまだ途上も途上ということなのだろう。経営者としてまだまだ進化していくに違いない堀江さんの率いる組織が、数年後数十年後にどのような変化を遂げ世の中にどんなインパクトを与えることになるのか、全くの部外者ではあるが行く末を見るのを勝手ながらに楽しみにしている。

市場の崩壊には表と裏の顔がある

 この2日、東京市場で大規模なアンワインドが観測されています。アンワインドとはポジション解消のことを指し、買いと売りを組み合わせて運用するロングショートヘッジファンドの場合、上がると見込んだ株を売って、下がると見込んだ株を買う動きをすることになります。こうした意に反する取引を迫られるのは、次のようなケースが考えられます。

・相場の急変動で先行きが不透明になった時に、安全を確保するためにポジションを軽くする
・あるヘッジファンドが大きな損失を出し、追加の損失を回避するために強制的にポジションサイズの縮小を図る
・成績の悪いファンドマネジャーがクビになり、ポートフォリオがまとめて処分される


 現在、世界中でマージンコール(追証)の嵐が吹き荒れています。3月の相場の急落で大きな打撃を被ったのは個人投資家だけではありません。今週には、1600億ドル(約17兆円)と世界最大規模の資産を運用する巨大ヘッジファンド、ブリッジウォーターが年初来で20%の損失を出し、マージンコールがかかっているという話も出てきました。同種の話は表に出てきていないだけでそこら中で起きているものと推測され、これが足元の相場の急変動の一因となっている可能性が指摘されています。

 

www.nikkei.com

 

 通常の相場で起こる散発的なアンワインドはさほど問題にはなりません。上がると見込まれる株が売られて割安になり、下がると見込まれる株が買われて割高になるので、これ幸いとばかりにその歪んだ需給は市場に吸収されていきます。

 ところが、これが短期間に集中的に発生すると大変なことが起きます。吸収しきれなかった需給によって期待していたのとは逆方向に株価が動くため、同様の戦略を取っている他のファンドマネジャーの成績が悪化します。そこに急激なボラティリティの上昇などが加わると、リスク管理の観点からポジションの縮小が始まり、アンワインドの連鎖が起きて成績の悪化に拍車がかかり、動きが加速していくことになるのです。

 このアンワインドの連鎖によりヘッジファンドが大打撃を被ったことが過去にもありました。それをまとめたものが「ザ・クオンツ 世界経済を破壊した天才たち」です。

  リーマンショックから遡ること1年前、前回のサイクルのターニングポイントと言われる2007年8月に起きたパリバショックに端を発する、表からは決して見えなかった相場の知られざる大混乱を描いた作品です。

 この中では、ゴールドマン・サックスが運用するヘッジファンド、「グローバルアルファ」がサブプライム関連で巨額の損失を出し、マージンコールによって株式や債券など一緒に運用されていた他のアセットを投げ売りしたことが崩壊の引き金を引いたと結論付けていました。

worldwealth.blog92.fc2.com

 13年前のグローバルアルファが、今回のブリッジウォーターなのかもしれません。この規模のヘッジファンドとなると、ありとあらゆる市場のアセットを複雑に組み合わせて運用していると考えられるので、その影響はどこに出てもおかしくないと思います。

 さて、東京市場に話を戻すと、典型的なアンワインドの動きがNTTドコモKDDIの間で起こっています。この2社はかなり似通った事業を展開していて、基本的には両者の株価の動きはほとんど連動しています。実際、この1ヶ月の値動きも3月11日まではほぼ同じでした。ところが、3月12日以降に両者の動きが真逆になり始めます。

2月20日 ドコモ 3145.0円 KDDI 3409.0円
3月12日 ドコモ 2911.0円 KDDI 3052.0円
3月13日 ドコモ 2873.5円 KDDI 2763.0円
3月16日 ドコモ 2870.5円 KDDI 2859.5円
3月17日 ドコモ 2912.5円 KDDI 2802.5円
3月18日 ドコモ 3015.0円 KDDI 2680.0円

  今日のドコモの株価は+3.52%の3015.0円で、一時は年初来高値まで後6円に迫る3158円まで上昇しました。日経平均が24000円から30%も下落する過程で、まったく下げなかったということです。一方で、ほぼ同じ動きをするはずのKDDIは今日も4.37%下がり、2月20日に比べて21.4%の下落となりました。同期間にドコモは4.1%しか下げていません。

 この1ヶ月の間に、ドコモに決定的にファンダメンタルズ上優位となる材料があったようには思えません。また、市場全体を見渡しても多分これはアンワインドだな、と思われるような値動きがかなり見られるので、これもその一つではないかと思います。

 とは言え、多くの投資家が注目している時価総額上位の銘柄なので、こんなにおかしな動きが出れば、いずれ収斂すると見てセオリー通りのペアトレードを実行した資金もかなりあると思います。しかし、その上で今日の極めつけの値動きです。それらを飲み込むほどの巨大なアンワインドが発生している可能性がありますが、不敗の巨艦ブリッジウォーターですらマージンコールになる相場であれば、何があってもおかしくはないわけです。

 ドコモとKDDIの例はわかりやすいですが、似たような値動きはそこかしこで観測できます。こういう時に上がっている銘柄が優良で、大きく下がっている株が劣っているということでは必ずしもなく、そこには大きなトレーディングチャンスが潜んでいることもあるのです。

 もう一つ、激しくクラッシュしていたのがREITです。東証REIT指数は-8.15%と大幅に下落しました。こちらは地銀を筆頭とした国内金融機関のロスカットだと見られています。特に今日は、午前中は比較的堅調だったにもかかわらず、引けにかけて加速度的に下落が進行。銘柄によっては15%を超える異例の暴落を記録しました。

 値動き的にはなんとしても今日中に売らなければいけない売り、という印象があり、最大手の日本ビルファンドでも売買代金が90億円程度しかない市場なので、今日は流動性を超えた投げに押されたものと解釈しています。全市場のNAV倍率は0.8で、これを下回っていたのはリーマンショック後の1年強ぐらいの期間だけだということです。

 REIT保有物件のタイプや質によって利回りにバラツキがあり、上位と下位の銘柄では数%の利回り差が恒常的にあります。最近まで上位で2%~下位で5%(ホテル除く)くらいの利回りだったのが、たった1ヶ月で40%も下落して、これが3~8%というようなレンジになりました。

 もちろん、今後景気後退によって賃料が下がり配当が減額されるリスクはあって、それを相応に織り込んだ動きではあると思いますが、過去のデータを見てみると、リーマンショックから1年半くらいはピーク時の配当額が引き続き出ていることがわかります。賃料は今日明日にいきなり下がるものではないので、織り込むにしても早すぎるのではないかと思います。

 また前回と違って今回は金融機関の足腰も強くなり、REIT自身も負債を長期にして安定度を高めているので、破綻などを想起するのはあまりにも行き過ぎていると思いますし、過去とは長期金利の水準が違うので、その点も考慮する必要があるでしょう。ここで投げている人がなにか自分の知らない悪材料を知っているというよりは、素直に地銀の機械的ロスカット説を信じる方が真実に近いのではないかと個人的には感じます。

 この原稿を書いている現在も、ダウは1300ドル安で原油は23ドル台に突入し、VIXは75と記録的な高水準で高止まりしています。プロの運用者はともかく、兼業の個人投資家が入るにはもっと相場が落ち着いてからで良いと思います。

 ただ、こうした混乱期には今回書いたように理由のない暴力的な動きが発生することが往々にしてあり、その背景を知っていれば一見奇妙だったり恐怖を感じるような値動きが別の見え方をしてくることもあります。

 「ザ・クオンツ」に限らず、過去の相場の裏側を明かした書籍はいくつもあるので、興味のある方はこうした機会に読み進めてみると、相場への理解を一歩前に進められるかもしれません。

 

追記:史上最大級の非合理的な値動きとして、下記のような事例もあります。これを忘れちゃいけませんね。

 

 

jp.reuters.com

 

 

ameblo.jp